プライムタイムズ

ニュース、金融、経済、書籍、映画などをテーマに幅広く扱っていきます

映画『マイ・インターン』を観て思ったこと

 シンデレラは、昔から女の子に大人気の童話で、継母・姉に苛められてきたシンデレラが、魔法の力によって奇跡を起こし、身分を越えて王子と結婚するというサクセス・ストーリーを描き、不自由なく素敵な結婚生活を送ることを夢見る子供心を絶妙に刺激した物語だ。しかし絵本に夢中になった少女達も成長すると、そんなことは夢でしか起こりえない現実に直面し、勉学に励み、時が来れば就職先を探し出すことになる。もちろん中には、色々とこじらせていて、いくつになっても、富がある人と結婚をすることだけを人生の目標として奔走している女性もいるし、偶然にも付き合えた人は、その充足感をさらに満たすためかどうかは定かではないが、SNSツールなどでマウンティングを繰り返している人もいる。

 

f:id:rei_kagami:20190212130216p:plain

 

  これは帝国バンクが公表する女性社長比率であり、個人事業主、非営利、公益法人などを除く約120万社を対象として、女性が社長を勤める企業の割合について表したものだ。女性活躍推進法が、2016年4月に施行されてから2年余りが経過し、女性起業家の支援環境の整備は着実に進んできたと思われていたが、まだ道半ばに過ぎないということが読み取れる。30年前と比較して、その割合は2倍ほどまで増加してきているが、前年比ではわずかに0.1%しか伸びていない。また女性社長では「同族承継」の割合が男性社長に比べて高く、とりわけ新任社長では、男性34.7%に対して、女性68.7%と2倍近くを占めているようだ。これは前社長の高齢化や後継者不足を背景に、配偶者や親から経営を承継する女性が増えたことが要因として考えられる。一方で、女性社長では、「内部昇格」や「出向」の割合が低く、とくに新任社長では、「内部昇格」が、男性の30.4%に対し、女性は15.1%と2分の1以下で、「出向」は男性14.3%に対し、女性2.1%と6分の1以下に留まっている。これは企業における女性管理職の割合が低いことが大きく影響してるようだ。

 

 

 映画『マイ・インターン』は、アン・ハサウェイロバート・デニーロが共演したヒューマンドラマである。若き女性起業家である主人公ジュールズが創業したニューヨークのファッション通販サイトは、一年前に25人だった社員が、200人に達すほどの急成長を遂げていた。自宅のキッチンではじめた事業が大成功し、いわゆるアメリカンドリームを体現したジュールズは、その急激な成長に翻弄されながら、ワンフロアの社内を自転車で移動しなければならないほど、忙しい日々を過ごしていた。ある日、ジュールズの腹心を担うキャメロンは、社会貢献という意味合いも含めて、シニア・インターンシップ制度を導入することを助言し、そこで70歳のベンが採用されることになった。若者ばかりの社内で、パソコンも器用に使いこなせないベンであったが、ジュールズ直下の部下として、日々の雑用をこなしながら、いつしか彼は、その誠実で穏やかな人柄によって、ジュールズから信頼を得たばかりか、社内で人気者になっていく。

 

 その一方で、ジュールズの会社を支援する投資家は、どんどん成長していく会社の事業規模に対して、ジュールズはもちろん、社員全体がそのスピードに追いついていないことを理由として、外部からCEOを雇うことを提案し、ジュールズを悩ませていた。腹心のキャメロンは、その案に賛成で、実際に候補者と面接をすることをジュールズに求め、彼女は忙しい合間を縫って、候補者と時折会いに行く。さらにジュールズは、家庭でも大きな問題がたちはだかっていた。ジュールズの成功の影で、仕事を自ら辞めてサポート役に徹していた夫が、家事育児に奔走していたが、実は浮気をしていたのだ。ジュールズは、目の前に立ちはだかる公私にわたる問題に立ち向かっていく決意をしながら、家庭の問題に対処する時間を取るため、外部CEOを雇うことを悩みながらも決定した。しかし結局、ベンの「夫の浮気のために創業した会社とキャリアを犠牲にする必要はない」というアドバイスによって、会社のCEOとしてやっていくことを改めて決断したのだった。

 

 この物語では、現代の大いなるテーマである女性の社会進出と、高齢者の活用ということをトピックとしている。さらに女性の社会進出において欠かせないであろう、夫の協力の仕方についても扱っていて、盛り沢山な構成だ。いまイクメンなんて言葉が一般的になってきたが、この物語における夫は、「専業主夫」であり、家事の分担がテーマではないが。ここで主夫である夫が浮気するところに、視聴者の共感をよぶための巧妙なトリックが隠されている。この場面の意図は、会社では自分のやりたいようにわがままに突き進み、家庭では、妻のために仕事を辞めて、自ら家庭に入ることを決めた夫のための時間すら取れない経営者を描いても、あまりに現実的すぎて、賛同を得られないからだ。女性起業家が、家庭を犠牲にして辛苦を共にした仲間と成功するという単純なストーリーを描くだけでは、昔の古き良き男のサラリーマン像のようになってしまい、目新しさもなければ、映画のテーマから離れてしまう。

 

 さて、夫が浮気することで、家庭の不幸も乗り越えて大きく成長する場面の意味は理解できたはずだ。さらに視聴者を引き込むためには、ジュールズが夫を心底愛しており、あくまでも夫の身勝手な理由で浮気が発生したという情景を描く必要がでてくる。そういうわけで、仕事から疲れきった主人公が、それでも夫との夜の営みを求め、それを「主夫業」で疲れた夫が断るシーンが実にシュールに描写されているのだ。こうすることで、観るものは一様に、ジュールズに共感することが可能となり、忙しくて家庭をないがしろにしたから浮気されたんでしょ、という批判を解消できる。

 

 もっと言えば、ここで夫と離婚して、ベンと結婚してめでたし、めでたしといった安易な結末にはならない所がこの映画の魅力だ。ベンには死別した妻に代わる恋人が用意されている。ここで年齢も地位も異なる二人が結ばれてしまうと、逆シンデレラストーリーになって、将来の子供たちの憧れが、「玉の輿ベン」という形で絵本になってしまう。ここを友情にすることで、現代の高齢者との付き合い方がリアリティを持って受けいれられ、大人のための物語になるのだ。

 

 少子高齢化が加速する先進諸国において、女性の社会進出と高齢者の活用は、重要な問題となっている。そして夫婦のあり方も、昔とは大きく異なってきている。東京医科大学が、入試で女子受験者らの点数を操作し、合格者数を抑えていたなどの一連の不正問題が大きなニュースになったり、年金の受給年齢が引き上げられたりした日本においても、この二つのテーマは永遠の課題だ。

 

 映画では、ジュールズも含めて、変化に対応できない若者が多く登場し、高齢者のベンだけが新しい環境に対して、抜群の対応力で困難を切りぬけるシーンがあるのはそのためだ。そんなベンが選んだ先がインターネット通販会社だというところもまた面白い。

 

 それにしても、働くって大変だなぁ。

 

参考文献:

女性社長比率調査(2018年) | 株式会社 帝国データバンク[TDB]