プライムタイムズ

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芸能人から解雇される日が来る?

 日本では、高齢化と少子化のダブルパンチにより、その生産年齢人口は、減少の一途をたどっている。そこで政府は、「一億総活躍社会」のキャッチフレーズのもと、女性の職場進出、高齢者の活用といった解決案を模索しており、いわゆる働き方改革に着手している。『マイレージ・マイライフ』は、ジョージクルーニー演じるライアン・ベンガムに焦点をあてた、企業で働くことについて、再考させられる映画である。ライアンは、人事コンサルタント会社で働いており、雇用主に代わって、レイオフや解雇を宣告することを生業とし、米国中の支店を飛び回っている。一年の大部分を出張に費やすライアンは、ほとんど自宅に戻らず、旅を楽しみながら、アメリカン航空至上7人目で、最年少の1000万マイル達成者となることを目標としている。ある日、野心的な若手社員のナタリー・キーナーは、社員が現地に赴き、対面して解雇を通達する方法から、テレビ電話によるレイオフに切り替えて、出張コストを削減するプログラムを推進する。ライアンは、このプログラムが非常に無機質であり、解雇される社員にとって、孤立したような感覚に陥る可能性があることを概念し、上司に対して、ナタリーは、解雇プロセスの実態や解雇される人々の扱いについて無知であると主張する。そこでライアンの上司は、ナタリーを教育させるために、ライアンの出張に動向させるのだ。ナタリーは、はじめての仕事において、マニュアルにそって解雇宣告を試みるが、1人はカメラの前で泣き出してしまったばかりか、それを収めることができず、また別の女性は、自殺をほのめかした。結局、その女性が本当に自殺してしまったことで、ライアンの上司は、ナタリーが推奨した遠隔解雇プログラムを中止し、今まで通り、現地に直接訪問し、対象社員に顔を突き合わせて解雇通知を実施する制度に戻すことを決めたのだった。

 
 イギリスの理論物理学者であったスティーブン・ホーキンスは、「完全な人工知能の開発は人類の終わりを意味するかもしれない、AIは独自に活動しはじめ、どんどんペースを上げながら自己改良していくだろう」という言葉を残して、この世を去った。『AI VS 教科書が読めない子供たち』は、人工知能と人間の関係を考えるうえで、大きな手がかりを教えてくれる著書である。書き手は、東大合格を目指すAIロボット「東ロボくん」の育ての親で、AIの可能性と限界、そして人間との共存関係を描いている。まず注目すべきは、スタートから7年の歳月を経て、東ロボくんが、大きな成長を遂げたということだ。2013年にはじめて受験した代々木ゼミナール「第一回全国センター模試」では、全国平均を大きく下回って、その偏差値は45だったものの、3年後の2016年に受験したセンター模試では、平均得点の437.8点を大幅に上回る525点を獲得し、偏差値も57.1まで上昇したというのだ。しかし一方で、AIの弱点は、依然として国語の試験であり、それはAIは読解力がないために文章の意味を理解しないから、自然言語を読みこなすことができないのだという。つまりこのAIが弱点とする分野で、これから先人類は戦っていけばいいー、という穏やかな結論で話は終わらない。そればかりか、我々の未来がそれほど明るくないことを突きつける。


 それは現代の中学生の多くが、「東ロボくん」より低い読解力しかないということが、全国読解力調査から浮かび上がってきたことだ。二つの文章の意味が同じかどうかを判定する問題で、中学生の正答率は57%に過ぎなかったようだ。これはつまり、当てずっぽうで選んだとしても達するであろう5割をわずかに上回っているだけということだ。中学生の3人に1人が、正しく文章を理解できていないにも関わらず、小学生からプログラミングや英語教育を導入することに価値があるのだろうかと疑問を抱かずにはいられない。もはやAIができる仕事は、これからどんどんAIに奪われていき、人間が職場を明け渡す日は近い。


 安部首相は、会見で「この国から非正規という言葉を一掃する」と高らかに発言した。その一方で、高度プロフェッショナル制度導入を目指し、グローバルスタンダードに合わせるように、高技能労働者と単純労働者という2つの枠組みに切り分けようとしている。制度そのものの概念は、高度な専門知識を有しており、一定水準以上の年収(1075万円以上の年収が想定)を得る労働者について、労働時間規制の対象から除外するということであるが、実態を考えていくと、将来的にこうなるだろう。日本の会社は、旧来から年功序列、終身雇用制度を採用し、「ジェネラリスト」を作るために、数年単位で部署移動するのが当たり前で、これはある意味で、高度プロフェッショナルな社員(スペシャリスト)を作ってこなかったと言える。上司や部下が、他部署からやってきて、専門的なスキルを有していないことは、当然のように起こりえるし、そうした効率性を度外視した制度は、終身雇用の中では、さほど問題にはならなかったのであろう。外資系企業出身の社員が、日本企業に転職した場合、既存の給与規定にそぐわないため、派遣社員のような形で期間契約をして、成果に応じて、収入が増減する採用システムになっているのもこれが理由だ。彼ら(高技能労働者)にとってのキャリアステップは、成果報酬が上がるかどうかということだけで、職種そのものが変わるわけではなく、野球選手などのプロスポーツ選手と同じようなものである。つまり、どこの企業に属しているかどうかは、正直あんまり関係ない。なかには会社名をとても気にする人もいるのだろうけれど。これまでの非正規、正規という枠組みから、高技能労働者と単純労働者に二分するというのであれば、労使制度そのものを見直す必要が出てくる。ただこれはそれほど目新しいものではなくて、日本以外の国では当たり前のように存在する。しかし日本でこの制度を導入するためには、海外と同じように解雇規制についても緩和していかないとならないことを意味している。つまり契約で約束した成果報酬を達成できない社員には、会社から強制的にでも辞めてもらわない限り、人件費ばっかりかかってしまって、会社としては、雇うメリットそのものが失われてしまうからだ。

 
 会社が大きくなると、扱う商品やサービスの幅が広がり、それに見合った人数が投入される。ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンの分野など、収益とコストに対する分析がなされ、言ってみれば、人を含めたポートフォリオが構築される。そうしたなかで、目標数値を達成できなくなったポートフォリオについては、商品やサービスの変更が加えられたり、人材が変更されたり、はたまた部門そのものが閉鎖されたりしながら、会社は運営される。こうした過程の中で生じるのがレイオフという処理で、通常の経済サイクルで起きることとなんら変わりはない。



 では会社がレイオフという意思決定をするとき、どのような人材が選択されてしまうのだろうか。これには無数の選択方法があるんだろうけれど、数字で成績が判定できない部分については、表のようなカテゴリーに分類できそうだ。普通に考えると、①-④番の順で解雇されそうだけど、実際は、④の「有能でコミュ力も高い人」が上司にとっては一番やっかいで、うっかりすると自分より仕事ができ、周囲からの人望も厚いために、将来的な自分の脅威となるため、選択されやすい。次は、①の「無能で、コミュ力も低い人」で、その理由としては、自ら考えて動こうとしないばかりか、コミュニケーション能力も低いため、部署内で孤立している可能性が高く、解雇という決定が周囲から賛同されやすいからだ。上の人間は、人を解雇をするとき、残る人材の意見や空気を気にするものなのだ。その次は、②の「無能だけど、コミュ力が高い人」で、それは仕事はできないけれど、様々な人とコミュケーションを図るため、上司にとって使い勝手が悪いからだ。最後は③の「有能だけど、コミュ力が低い人」で、上司にとって一番貴重な人材である。なぜなら有能であるが故に、与えられた仕事は完璧にこなすうえ、コミュニケーション能力が低いため、周囲からの評価は低く、給料やボーナスのコントロールがしやすく、上司にとっては安くこき使うことが可能だからだ。






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 筆者は結局AIが進んだ未来でも、このような形は変わらないのではないかと思う。上司の求めることを適切に「読解」し、ときに部署内で推進される自動化を止めるような案を提出して、雇用を守ることに勤め、ときに必要のない社員を解雇するために、ロボット化を上司と一緒に推進するような人が生き残るのかもしれない。その上司の仕事がロボットになってしまう、もしくは上司自身がロボットになってしまえば話は別だが、人間とは非効率で臆病な生き物なのだ。そして解雇の決定も、その人間がすることなのだから。


 さて金融機関では、日ごとに自動化が加速しており、株式業務ではその傾向が顕著になっている。こうしたことを背景として、取引方法をロータッチ執行、ハイタッチ執行とに分けて、サービスを提供することが一般的になっている。ロータッチ執行とは、証券会社のトレーダーが、運用会社の執行に関与しない取引形態を示しており、アルゴリズム取引などの電子取引を表している。それに対して、証券会社のトレーダーが関与する取引形態をハイタッチ執行と呼び、トレーダーに執行権を与えながら、自己ポジションでリスクを取るような取引を表す。ロータッチ取引においては、執行から決済までストレート・スルー・プロセッシングと呼ばれる、人の手を介さない形態が一般的で、ハイタッチ執行と比べて、コストが低い。昔のように、右手で顧客の電話を受けて、左手でトレーダーのプライスを聞くような業務は、確実に減少している。AIの普及によって、もはや高度プロフェッショナルの職すらも脅かされているということだ。もはや未来は、人間のいう高度プロフェッショナルという仕事は存在しないのかもしれない。

 ナタリーの進めた制度は、単に時代が間に合っていなかっただけであって、遅かれ早かれ、彼女の案は一般的になったのだろうし、もっと言えば、AIによって解雇通達される日もそう遠くないかもしれない。女性の部下にはイケメンのAIから、男性の部下には美女のAIから解雇させるといった方式が加速し、上司が特定のロボットを選択するような時代が訪れるかもしれない。

 乃木坂の握手会に行かずして、会社の上司から「白石麻衣」が部屋で待っているから来るようにと指示されたなら注意したほうがいい。