プライムタイムズ

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転職ということについて考えてみた

 600万年前から、人類はサルとは異なる道を選択し、狩猟採集生活を始めた。狩猟採集生活は、その日に食べられるだけの獲物や植物を取れるだけとって、その日のうちに食べきってしまうものだ。なぜなら、現代のような貯蔵システムは存在せず、余った食材を保存したくともできないのだ。そして、ある特定の場所で獲物がとれなくなったら、また場所を変えて同じ生活をすることを強いられる。そんな時代が長く続いたが、貨幣経済が発達すると、物やサービスを購入したり、売却したりといったシステムが確立され、現代では物を狩猟する能力ではなく、貨幣を稼ぐ能力が求められている。

 

  狩猟採集生活をしていた当時の人類にとって、その日に獲物が取れるかどうかは死活問題であって、取れない日が続けば、それは死を意味する。つまり多くの獲物がいる地域や場所は貴重な財産であって、探索能力があることは、非常に価値あることであった。現代の貨幣社会では、資金力がそのまま生活力になるため、企業に勤める多くのビジネスパーソンにとって、在籍する会社が重要なのは言うまでもない。つまり何かしらの理由で会社に価値を見出せなくなったとき、人は転職することを決めるのだ。これは獲物が取れなくなった場所に対して、意味を失って移動するのと何ら目的は変わらないだろう。ただそんな中、いま転職市場では、賃金上昇レベルが落ちてるのだそうだ。つまり、会社を変えたところで、賃金上昇がそれほど見込めなくなっており、転職するインセンティブは減少しているということだ。

 

 ただその日暮らしから脱却した人類にとって、今日、明日といった短期的な視点で生活する必要はなくなったため、転職を決定する理由はいくつかあるだろう。特に統計を取ったわけでもないから、世間的にどんなことが引き金になって転職するのかは定かではないが、3つほど理由があげられるかもしれない。

  • 現状の給料に対して不満があって、転職によって賃金上昇を見込めるから
  • 社内の人間関係に不満があり、とにかく環境を変えたいから
  • 職種の変更を考えているから

 

  この中で、給料の上昇を望む転職が、一番可能性が高いのではないだろうか。転職を考えるときに重要になってくるのが、「自分のスキルが、別の会社でどれくらい価値があるのか」を思案しなければいけないことだ。この出発点を間違うと、色々と不幸なことになる。つまり、どんなスキルが他社に持っていけて、何が持っていけないのかを考えないといけないということだ。例えば、社内だけで活用してるシステムなり、コネクションなり、資料なりは、当然ながら現状の会社に置いていかないといけない。一方で、PCスキル、語学力、そして個人だけが持っている特別な技術などは、他社でも活用できる。結局どこの会社も、その人の持っている特定のスキルについて給料を出しているのであって、その個人の人柄の良さや、外見などのアバウトなものに給料を出しているわけではない。(プラスアルファになるケースはあると思うけど)

 

 多くの人は、ここら辺の分析をするまえに転職市場に飛び込んでしまい、自分の求める給料と提示される給料のギャップに悩んでしまうのだ。人は会社で長く働いていると、その会社に置いていかないといけないスキルを自分の特別なスキルだと勘違いする。とりわけ日本の企業において、社員は市場や消費者に目向けて商売をしているのではなく、上司が納得するビジネスプランを出して、それを執行することが重要なため、その会社で評価が高いということは、あくまでもその会社でしか通用しないが、さもマーケットでの価値があると思い込んでしまうのだ。自分と同じような大学を卒業し、同じようなキャリアパスを望んでいる人を採用し、同じような人間を作りだす。こうなると、過去のモジュールを精査し、それに照らし合わせて、物事を進める能力が重宝されるようになる。つまり会社は、過去の物事を精緻に理解し、新しいことに対して、その過去の経験から起きたことを当て込んでいける社員の能力に給料を払っている。

 

 そうなると、外の世界にいっても、転職先の会社のことを理解することに時間が費やされ、自分の特別なスキルを活用する場面は限られると思うかもしれない。これは職種によって異なるので注意が必要だ。例えばトレーディング業務でいえば、システムが変わっても、その人の能力や経験が全てであって、とくに置いていかないといけないスキルに囚われる必要はない。だが他の部署との連携が必要だったり、その部署特有のルールがある場合は、特別なスキルよりも、その会社独特のコネクションだったり、仕組みだったりが重要になり、自分の持つ特別なスキルは影をひそめることになるだろう。さらに何かを意思決定するときは、上司の判断を仰がないといけないし、ドラスティックに物事を進めることができない。

 

 では外資ではそれが可能なのか。答えはNOといわざるをえない。高齢化が進み、在籍期間が長くなった上司が多くなり、上司のスタイルに沿っていかないと、前の会社と同等の成績を出したとしても、解雇される可能性もある。つまり外資でも違ったフレームワークが存在し、新しいトレンドが存在するための時間軸は長くなっている。こうして、社内での人間関係が重要になってきて、ときに埋められない摩擦に嫌気がさして転職したくなるのだろうし、また日々同じことを繰り返してるうちに、人は新しいことをやりたくなって転職するというサイクルが生まれるのだ。

 

 人類は狩猟採集時代から、何かを得るために場所を移し、一番獲物が取れるところを目指して放浪してきた。そういう歴史を考えると、一番自分の求めることを達成する場所を目指して人が転職するのは、ある意味では当たり前の話で、これまでの年功序列、終身雇用という安定が失われれば、永続的に獲物が取れる環境ではなくなるわけで、ますますこれから転職市場は賑わうに違いない。

 

 いやーサラリーマンはつらいよ。 

 

 

参考文献 

「転職で賃金増」の減少を、キャリアコンサルタントとして歓迎する理由 | 松岡保昌 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト