プライムタイムズ

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部屋を片付けると痩せられるし、稼げるようになる?

 「海外では太っていると出世できない」という言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれない。その理由は、肥満が自己管理ができていない人物の象徴として扱われるため、そんな人間に部下の指導など不可能だからというものだ。遺伝的に太りやすい人がいるのも事実だけれど、太るには、様々な要因があって、炭水化物や糖分の過剰摂取などが考えられる。はるか昔から、人類にとって糖質はきわめて貴重だっただけでなく、魅惑の食物だった。これは人類がミツバチの巣から蜜を取っていた風景が、スペインの洞窟で発見され、さらにその後、果実を土器で煮た跡が見つかっていることから、果実が長期間にわたり保存されていたと解釈でき、いかに大事なものであったかがわかる。現代では、糖質の成分が多いハンバーガー、コンビニ弁当など、ファストフードが容易に手に入るようになり、アメリカでは、貧困層の肥満が大きな社会問題となっている。

 

 では日本ではどうなのだろうか。終戦当時、日本には限られた砂糖しかなく、一時期、配給制が取られていた。食料難の時代であったため、甘味は、非常に貴重な存在だったのだ。国民の需要に対して、配給される砂糖だけではとても補えないため、一時期人工甘味料がその代替物として使われていたが、安全性の面から使用禁止となった。やがて戦後の復興と共に、砂糖の消費量は飛躍的に増加し、1人あたりの年間消費量は、1973年には29キロまでになり、現在は20キロ程度に落ち着いている。高価な贅沢品であった砂糖が、現在では生活必需品となり、あらゆる食品に使用され、日本人の食生活を豊かなものにしてくれている。砂糖だけに留まらず、あらゆる貴重な食品は、いまでは嗜好品の一つに過ぎなくなり、飽食の時代となった現代おいて、食習慣は大きな健康面からも大きな関心ごとの一つであり、その様子は世帯間で異なっている。 

 

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 この図は、いま話題の厚生労働省の「平成26年国民健康・栄養調査」のデータから抜粋した、世帯所得と肥満の関係だ(このデータが改ざんされているかは知らないけれど)。このデータによると、男女ともに、世帯所得が低いほど、肥満の割合が多いことが読み取れ、そして男性のほうがその相関が顕著に表れている。この理由は、貧困層の世帯にとって、食事は「腹を満たすための生活の糧」という位置づけで、生きるために必要不可欠であるため、限られた経費で摂取カロリーを増やそうとするインセンティブが働くからだ。つまり炭水化物などを多く取ることの誘引となっている。富裕層にとって、食事は単なる栄養補給手段ではなく、人生における楽しみの一つになっていることだろう。いずれにせよ、日本においても、貧困層のほうが、富裕層よりも肥満率が高く、ある意味で「太っていると出世できない」と言えるかもしれない。昔は、肥満は裕福の証として存在し、ドラマ、コミックなどでも、私腹を肥やす悪者は、だらしなく太った人物が多く登場していた。そう考えると、いまの金持ちの悪者は、ホソマッチョとまではいかなくても、痩せ型として描かれるべきで、もうすでにそうなっているかもしれない。

 

 

 

 さて、日本でベストセラー本を世に送り出し、一世を風靡した「片付けコンサルタント」を自称する近藤麻里恵(通称:こんまり)は、そのビジネスの舞台をアメリカに移している。近藤は、アメリカでも一大センセーショナルを巻き起こし、その手法は、多くのメディアや雑誌に取り上げられ、ネットフリックスでリアル番組もスタートするほどの人気を呼んでいる。そうした人気の影響からか、片付けブームに乗った人たちによって、慈善団体に寄付される品が前年比で30%以上増加したというデータもあるようだ。

 

 整理されていない部屋で生活していると、ジャンクフードの過剰摂取やテレビを見る時間が増加するといったストレス対処行動に陥りやすくなるのだそうだ。さらに 無秩序な空間は、我々の脳にも影響を与えることが科学的な研究で証明されている。人間の脳は秩序を好むため、人間の認知力は消耗し、集中力は低下し、記憶力も減退するのだそうだ。たしかに筆者のまわりで仕事ができない人間の机は無残なことになっている。PCに保存されたフォルダーは、同じような名前が散乱し、どれを開いたらいいかわからないばかりか、そのフォルダーに保存された資料は、もはやそのフォルダーの名前と整合性が取れないし、なぜそこにあるのか本人ですら説明することさえもできない。ただ能力が低いからこうなってしまったのか、雑然とした空間がその人をその行動に走らせたのかは、まだ解明されていない(一生解明されないかもしれないけれど)

 

 モノを片付けることによって、生活空間に秩序が戻ると、集中力や生産性が向上することが研究によってわかっている。散らかった部屋は、ストレス指数を高め、不安や落ち込みといった情緒を狂わせる原因となる。2009年のアメリカの研究で、散らかった家に住んでいる母親のほうが、ストレスホルモンの指数が高かったようだ。これがもし本当ならば、親から子への虐待の軽減につながるかもしれない。

 

 さらに散らかった部屋と体に悪い食べ方が関連していることは、複数の研究で証明されているようだ。 ある実験では、乱れた空間で生活した被験者は、スナックを消費する量がふえ、整頓された場所で暮らす人よりも、クッキーを食べる量が2倍増加したらしい。他の研究でも、汚い部屋にいる人は、りんごよりもチョコレートバーを食べる確率は2倍になった。極度に汚い家で生活する人は、体重が平均より増える可能性が、77%高いのだそうだ。

 

 

 筆者は、常々モノを片付けられない人を見かけるたびに、不思議に思っていた。職場のデスクの下に無数に散乱した靴をそのままにする女性、山積みになった書類や書物をそのままにしている事務員、食べ終えたものを捨てないで部屋に置きっぱなしにする人、例をあげればきりがないが、そういう人たちは、自分で不幸に向かって走っている。片付けができない人は、自ら精神状態を乱し、健康状態を悪化させ、肥満の可能性を上げている。ジャンクフードをむさぼり、その体重をどんどん増加させ、もしかしたら社会的地位まで失わせているかもしれない。

 

これまでのデータが正しいならば、肥満の人は貧困ということになるばかりか、肥満の人の家は汚いということになる。筆者は、コミックなどでよく出てくるゲームオタクの姿をなんとなく連想してしまった。そして自分の腹を見つめながら、朝のジョギングを決意したところで締めくくりたいと思う。

 

 

 

 

 

 参考文献:

「こんまり」人気の深層──片づけは不眠や不安や肥満さえ癒す | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト